放射線治療とは
放射線治療:科学の刃でがんを断つ!がん治療の3本柱の一翼を担う放射線(当院では高エネルギーX線)を用い、がんを切らずに治療する理想的かつ画期的な治療法です。照射中に苦痛や不快感を生じることは全くありません。
現在日本人の死因は悪性新生物(一般的にはがん)が不動の第1位です。統計上では、一生の中での2人に1人はがんを患い、3人に1人はがんで命を落とす時代となっています。他の有力ながん治療法である手術療法や薬物療法(抗がん剤)に比し、放射線治療は病気の進行度や患者さんの状態に応じて根治から症状緩和まで、幅広く適応可能で大きな受け皿をもつ治療法です。近年、日進月歩の技術革新を背景に放射線治療は飛躍的に進歩しており、多くのがんを切らずに制御可能な時代になっています。
当院では最新鋭の放射線治療装置・照射技術を導入しているだけでなく、がん専門病院で研鑽を積んだ専門医が中心となり、放射線技師・看護師と各々の専門性を尊重しつつ、協力しあうことで万全のチーム医療を展開しています。丁寧な診察・説明はもちろんのこと、がんを患った患者さんに安心して質の高い放射線治療が提供できるよう日々努めています。
当院で施行可能な高精度放射線治療の紹介
最新治療機を駆使した技術の粋!
強度変調放射線治療
IMRT:Intensity Modulated Radiation therapy
専用のコンピューターと高精度照射装置を駆使して、多方向から線量強度の異なる放射線を正確に照射する事で、標的腫瘍に十分な線量を担保しつつ、周囲の正常組織の線量低減も図る画期的な照射技術です。これにより、従来治療が難しかった重要な正常臓器に近接する腫瘍にも安全に根治を期待できる線量が投与可能になります。特に当院ではIMRTの発展形である強度変調回転放射線治療(VMAT:Volumetric Modulated Arc Therapy)を標準的に適応しており、これにより精密な照射が短時間で可能となるため患者さんの負担低減につながっています。
適応について:限局性の固形がんが対象ですが、特に前立腺がんや頭頚部がんでの高い有用性が知られています。
- ※詳細については治療担当医にお問い合わせください。
定位放射線治療
SRT/ SBRT:Stereotactic Radiotherapy
厳密な精度管理のもとに多数の方向から腫瘍に高線量の放射線を集中して照射する技術で、いわゆる“ピンポイント照射”と呼ばれています。一度に高線量を照射するため、治療効果が高く、照射回数も少なく済むため治療期間が大幅に短縮可能です。また、当院の高精度照射装置は高出力のため、大線量の照射も比較的短時間で治療可能です。
- 適応について
- 転移性脳腫瘍を主体とした頭蓋内腫瘍
- 3cm未満の単発か少数個の肺腫瘍・肝腫瘍(原発・転移ともに)
- 局所限局前立腺がん など
- ※詳細については治療担当医にお問い合わせください。
画像誘導放射線治療
IGRT: Image-guided Radiotherapy
肉眼では見ることができない患者さんの体内の腫瘍の位置を治療装置で照射直前に画像を撮像し、位置照合・補正を行い毎回正確に照射する技術です。精密な位置照合/補正後に照射できるので、正確な照射が確実に行えます。
当院の高精度照射装置ではCT撮像が可能なだけでなく、床面に埋没されたX線撮影装置も併用することで、状況に応じて迅速に正確な位置照合および補正が可能なシステムとなっています。
放射線治療装置
当院は2014年に愛知県で初めて高精度放射線治療装置TrueBeam STx(トゥルービーム)を導入し、実績を積んできました。強度変調放射線治療(IMRT)、定位放射線治療(SRT)などで特に活躍しています。もう1台のCLINAC iXは、すでに世界各地の5,000施設以上で導入されている、信頼と実績のある放射線治療装置です。広範囲な画像取得技法と多彩な治療オプションを有し、多様な治療技術に対応が可能です。
温熱療法装置
温熱療法(ハイパーサーミア)は、患部を42.5℃程度に加温することでがん細胞を死滅させる治療です。当院は2022年に、サーモトロン-RF8 GR Editionを2台導入しました。放射線治療や化学療法と併用することで、その効果を高めることが可能です。
当院の特徴的な治療法
前立腺がんに対する寡分割照射/定位照射
前立腺がんに対する放射線治療の効果は手術と同等と考えられていますが、通常は8週間程度の治療期間を要します。しかし近年、1回あたりの治療強度を上げて期間を短くする「治療の寡分割化/定位化」が保険診療として認められるようになりました。当院では観察研究の一環としてこの寡分割治療に早期から取り組み、現在では従来の治療法(78Gy/39回:約8週間)に加え、中等度寡分割照射(60Gy/20回:約4週間)、及び定位照射(36.25Gy/5回:1週間)を実施しています。当院の高精度放射線治療装置TrueBeam STxを用いることで、いずれの方法でも治療時間はほぼ変わらず、金属マーカーを埋め込む必要もありません。これら3つの照射法の良し悪しについては、当院も参加した多施設共同研究の結果でも一部報告していますが、患者さんの状態とご希望に合った最適な方法を提供いたします。
口腔がんに対する動注併用放射線治療
舌や歯肉など、口腔内から発生するがんには手術が行われることが多いです。しかし治療後は顔貌が変化し、開口・咀嚼・嚥下などの機能に障害が残り、結果として病気が完治したとしても治療後の生活の質が大きく損なわれてしまいます。当院では症例に応じて、手術とは別の選択肢である動注併用放射線治療を提示しています。動注併用放射線治療はがん細胞が栄養をとりこんでいる動脈に直接抗がん剤を注入し、同時に放射線を照射することで根治を狙う方法です。現在データ公表の準備中ですが、良好な治療後の生活の質を保ちつつ、手術と概ね遜色ない治癒率を達成することが期待できます。
少数個転移がんに対するあきらめない放射線治療
転移・再発をきたしたがんを治癒させることは難しく、一般的にその予後は不良です。しかし、病変の個数がまだ少数である状態をオリゴメタスタシスと言い、それら限られた病変を制御することで予後改善の可能性があることが明らかとなってきました。当院では少数個の転移・再発をおこしてしまった症例に対し、放射線治療で病変を制御するよう積極的に取り組んでいます。高精度治療技術を用いることで、少ない身体への負担で予後改善を狙うことが可能です。当院を含めた共同研究の解析結果を見ても、一部の症例で長期生存が得られていることが示されており、確かな手応えを感じています。
甲状腺眼症に対するステロイドパルス併用放射線治療
放射線治療の対象は悪性腫瘍だけではありません。甲状腺眼症は主に、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)に関連して眼窩内に炎症が生じ、複視や眼球突出が引き起こされる疾患です。消炎のためには通常ステロイドパルス療法が施行されますが、奏効が得られなかったり、再燃したりする場合も少なくありません。そうした難治性が予想される症例に対しては放射線治療を併用することが推奨されています。当院ではステロイドパルス療法のための入院期間中に放射線治療を同時併用しており、総治療期間を延長させることなく良好な治療成績を示しています。